日本ワーグナー協会(編)
A5判 184頁 並製
価格 3,190円 (内消費税 290円)
ISBN978-4-86559-167-5 C1073
在庫あり
奥付の初版発行年月 2017年07月 書店発売日 2017年07月05日 登録日 2017年06月12日
日本のワーグナー研究の最新動向を伝える年刊誌。巻頭インタビューはバレンボイム氏が登場。特集ではブラームス、ニーチェ、ヒトラーなど「ワーグナーに呪縛された人々」を取り上げるほか、寄稿も充実。最新情報も満載。
日本のワーグナー研究の最新動向を伝える年刊誌。
巻頭インタビューはダニエル・バレンボイム!
『ワーグナーシュンポシオン』は、わが国におけるワーグナー研究の成果やワーグナー芸術にかんする多様な情報を発信する年刊誌。
日本ワーグナー協会が創立から今日まで、ほぼ10年単位で誌名と編集方針を更新しつつ、刊行を続けていますが、今年からアルテスが発行・発売を担当することになりました。
「シュンポシオン」は、古代ギリシャで酒を酌み交わしながら行われていた議論のことで、プラトンの『対話篇──饗宴』の原題でもあります。
本誌を、ワーグナーについて真摯かつ自由闊達に語り合う場にしたいとの願いが、この誌名にこめられています。
本号では、「ワーグナーの呪縛(1)」と題して、ブラームス、ニーチェ、ヒトラーなど「ワーグナーに呪縛された人々」を取り上げるほか、山崎太郎氏、東野治之氏、樋口裕一氏をはじめ寄稿も充実。バイロイト音楽祭や国内の上演報告、内外の文献紹介ほか最新情報も満載しています。
■インタビュー──ワーグナー 今年の顔
ダニエル・バレンボイム氏インタビュー(聞き手:舩木篤也/通訳:蔵原順子)
まえがき(杉谷恭一)
■特集──ワーグナーの呪縛
ヴァーグナーとブラームス(森 泰彦)
ニーチェと《トリスタンとイゾルデ》(谷本慎介)
In jener Stunde begann es「あのときに始まった」
──ヒトラーの政治思想に入り込んだワーグナー(鈴木淳子)
[連載『ワーグナースペクトラム』誌掲載論文]
トーマス・マンとリヒャルト・ワーグナー
──クナッパーツブッシュの場合(ハンス・ルードルフ・ヴァーゲット/杉谷恭一訳)
■寄稿
ラン・ジークリンデ・ラン── ある女性の遁走を読み解く三つの試論(山崎太郎)
■エッセイ
ワーグナー受容事始──ケーベルと姉崎正治(東野治之)
私がワーグナーに呪縛された三つの理由(樋口裕一)
■上演批評[バイロイト音楽祭報告 二〇一六]
ラウフェンベルク演出の《パルジファル》
──テロリズムに《パルジファル》は答えうるか(梅津時比古)
[国内ワーグナー上演 二〇一六]
ワーグナー豊饒の年を振り返って(山崎太郎)
■書評
国内ワーグナー文献 二〇一六(江口直光)
海外ワーグナー文献 二〇一五/二〇一六(フランク・ピオンテク/松原良輔訳)
執筆者紹介
■海外ワーグナー上演 二〇一六(曽雌裕一)
日本ワーグナー協会二〇一六年度活動記録
まえがき
『ワーグナーシュンポシオン』二〇一七年号をお届けします。巻頭には、昨年二月、シュターツカペレ・ベルリンとのブルックナー・ツィクルスのために来日したダニエル・バレンボイム氏へのインタビューを掲載しました。ここで氏は、自身のワーグナー観やワーグナー作品へのアプローチ法、バイロイト祝祭や演出の在り方などについて縦横に語っています(聞き手:舩木篤也氏)。
さて、本号と次号は「ワーグナーの呪縛」という特集テーマを立て、本号では論文四編を掲載しました。冒頭に置いた森泰彦氏(音楽学)の「ヴァーグナーとブラームス」は、共通の友人・知人との交友を含む伝記的な叙述や、ブラームスの作品にみられるワーグナーの「存在」の具体的な例示を通じて、両者のあいだの、単なる「対立」という概念では十分に捉えることのできない、屈折していると同時に「合わせ鏡」のような関係を明らかにしています。次に谷本慎介氏(ドイツ文学)の「ニーチェと《トリスタンとイゾルデ》」を掲載しました。ニーチェは、ワーグナー信奉者からワーグナー批判者に転じたのちも、《トリスタン》をワーグナーの最高傑作として評価し続けましたが、本論文は、ニーチェが《トリスタン》の「治癒力」に言及していることに着目し、ワーグナーの著書『オペラとドラマ』とニーチェの『悲劇の誕生』を読み解きながら、その「治癒力」の内実に迫る試みです。続く鈴木淳子氏(比較文学比較文化)の「In jener Stunde began es「あのときに始まった」──ヒトラーの政治思想に入り込んだワーグナー」は、主としてヒトラーの『わが闘争』や周辺人物の証言、またヒトラーに影響を与えたと推測される心理学書に依拠しながら、「大衆暗示」、「自己演出」、「宗教的恭順」といったキーワードを用いて、ワーグナーがヒトラーの政治思想にいかに浸透していたかを論述しています。特集の結びとして掲載したのは、『ワーグナースペクトラム』誌二〇一一年号、第二冊の特集「トーマス・マンとワーグナー」の巻頭論文で、ワーグナー研究の重鎮ハンス・ルードルフ・ヴァーゲット氏(ドイツ文学)による「トーマス・マンとリヒャルト・ワーグナー──クナッパーツブッシュの場合」(杉谷恭一訳)です。概略については「訳者まえがき」をお読みください。
特集のあとに、山崎太郎氏(ドイツ文学)の寄稿「ラン・ジークリンデ・ラン──ある女性の遁走を読み解く三つの試論」を掲載しました。これは二〇一四年にドイツで出版された論文集に収められたドイツ語論文を、著者自らが加筆修正を施しつつ全訳したもので、《ヴァルキューレ》第二幕におけるジークリンデの逃走の理由を異なる視点や射程で探る三編の論考を、さながらフーガのように配置した卓抜な論文です。
続くエッセイとして、歴史家(日本古代史)、東野治之氏の「ワーグナー受容事始──ケーベルと姉崎正治」と作家の樋口裕一氏による「私がワーグナーに呪縛された三つの理由」を掲載しました。前者は、実証性と説得力に富む重みのあるエッセイで、後者は軽妙な筆致のなかにも鋭利な切り口を見せて読者の知的関心に訴える一編です。
国外上演批評は、梅津時比古氏による「バイロイト音楽祭報告 二〇一六」です。梅津氏は、イスラムとテロリズムの問題を主眼にして作品を読み直したウーヴェ・エーリク・ラウフェンベルクの《パルジファル》新演出を取り上げ、テロリズムをめぐる現代の状況を考察したうえで、この演出が《パルジファル》をテロリズムに対する一つの答えとして提示しているとみています。演奏に関しては、歌手陣の好演を評価するとともに、指揮者のヘーンヒェンを最大の功労者として賞賛しています。国内上演批評では、山崎太郎氏が、三月の《オランダ人》(神奈川県民ホール)から一一月の《ラインの黄金》(ザルツブルク・イースター音楽祭in JAPAN)までの、国内で行われた八つの全曲公演それぞれについて、的確にして臨場感に富む批評を記して充実した一年の回顧しつつも、最後に「舞台演出という面で将来を占うような目覚ましい進展が見られなかった」ことが「少し寂しい」との感想を述べています。
「国内ワーグナー文献 二〇一六」では、江口直光氏により、明治期のワーグナー受容に関する著作と伝記的著作(翻訳)という書籍二点のほか、ワーグナー作品を扱った紀要論文三点についての論評がなされ、「海外ワーグナー文献 二〇一五/二〇一六」では、フランク・ピオンテク氏(松原良輔氏訳)により、ヘルマン・レーヴィの手紙、ミュンヒェンにおけるシンポジウムの記録、マインツにおける連続講演の記録、そしてワーグナー家の墓所に関する著書の紹介と批評が記されています。
また巻末には、会員の曽雌裕一氏作成になる上演データ「海外ワーグナー上演 二〇一六」を掲載しました。
最後にご報告いたします。本誌の編集と発行は、前身である『年刊ワーグナー・フォーラム』創刊(二〇〇二年)以来、編集プロダクション・ラグタイムと東海大学出版会(二〇一四年より同大学出版部)に依頼しておりましたが、発行所の業務縮小などの事情により、本号より編集・出版ともにアルテスパブリッシングにお願いすることになりました。編集委員会は、これまで一五年間にわたって協会年刊誌の出版にご尽力くださいましたラグタイム代表の青柳亮氏、東海大学出版部の柴田栄則氏に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
編集委員を代表して 杉谷恭一
在庫あり
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