Books〈ウト〉
鈴木 秀美(著)
四六判 216頁 仮フランス装
価格 2,420円 (内消費税 220円)
ISBN978-4-86559-162-0 C1073
在庫あり
奥付の初版発行年月 2017年05月 書店発売日 2017年05月26日 登録日 2017年04月18日
鍵盤楽器の隣を定位置とし、旋律楽器にくらべて目立たず、なんとなく簡単そうな仕事と見られがちなバロック・チェロ奏者は何を考えて演奏しているのか。音楽界随一の名文家が滋味豊かに綴る、古楽の歓びに満ちたエッセイ集。
バロック・チェロ奏者にして
音楽界随一の名文家が滋味豊かに綴る
古楽の歓びに満ちた最新エッセイ集。
「通奏低音は時に面倒な仕事である。
しかしそれは、
込み入った過程を経て出来上がる
様々な工芸の世界にも似て、
大量生産とは違う味わいの音楽造りに
必要な理解と技術なのである。」
──「あとがき」より
バロック音楽の演奏になくてはならない「通奏低音」。
古楽がブームを経て音楽ジャンルのひとつとして定着した現在でも、「通奏低音とは何か」は正しく理解されているとはいえない。
「鍵盤楽器の隣」を定位置とし、旋律楽器にくらべて目立たず、それどころか、なんとなく簡単そうな仕事と見られがちなバロック・チェロ奏者は、常日頃どんなことを考えながら演奏しているのか──。
古楽演奏の現場から、ユーモアとペーソスをこめて伝える「通奏低音弾き」の日常。
「ジャンルを問わず、簡単そうな仕事や目立たない仕事にはいろいろと知られざる事情、悲喜交々の経験があるものだ。通奏低音もまた然り。こういう仕事をしている人、これからしたい人、また普段コンサートや録音で音楽を聴かれる方々にも、半ば裏方である通奏低音という仕事の事情を少しばかり知っていただき、楽しんでいただければ幸いである。」──「episode 1 通奏低音?」より
第Ⅰ部 通奏低音弾きの言葉では、
[episode 1]通奏低音?
[episode 2]不均等な音律
[episode 3]ステージの調律師
[episode 4]ピッチ
[episode 5]音の間隔、指の感覚
[episode 6]両隣の鍵盤
[episode 7]発音と減衰
[episode 8]発音の道具
[episode 9]音量の問題
[episode 10]王の拍と卑しい拍、緊張と弛緩
[episode 11]アップダウン・クイズ
[episode 12]初見が常識……
[episode 13]Walking bassの針小棒大
[episode 14]練習曲と大作曲家
第Ⅱ部 通奏低音弾き、シャンソンを弾く
シャンソンと通奏低音
通奏低音弾きのインテルメッツオ
不自由な人間
想い出の屋台
弦楽四重奏と、その上
第Ⅲ部 通奏低音弾きの師
井上頼豊先生
センセイとデシ
怠慢と廊下の得
フランス・ブリュッヘン氏を悼む
二人のB
あとがき
実は、本書が出る二〇一七年の初めで、チェロを弾いて五〇年、ガット弦を弾いて四〇年になる。食べることと寝ること以外でこれだけ長く続けられていることは他にないのではないか。まだ終わったわけではないので、個人的「記録」はもっと伸びそうだ。
そんな年に、今までの仕事をまとめたものが出せたのは嬉しい。お解りの読者もおられると思うが、第Ⅰ部はネットに連載していたのをまとめたものである。内容は今までに書いたり喋ったりしたことと重複しているかもしれないし、第Ⅱ部以降では記憶違いの可能性もあるが、その辺りは大目に見ていただければ幸いである。
鍵盤楽器には「通奏低音」の理論やメソードがしっかりあり、規則に則って右手を即興して弾くのは今や常識になっているが、基本的に単音であるチェロ他バス楽器では、和声を理解して弾くとか、チェンバロやオルガンとグループになって弾くといった仕事やその方法は未だに殆ど知られていない。業界では通奏低音奏者のことを「絶滅危惧種」と呼んで自虐的に笑っている。
もちろんそれは、音楽学校の教育に含まれていないからである。旋律楽器がコンチェルトやソナタを学んでオーケストラに就職するのは言わば自然なことだが、オーケストラのチェロ・パートは、もちろん旋律的要素も大いにあるとはいうものの、やはりまずは低音として全体を支えるものなのである。それにも拘わらず、学校ではコンチェルト等の旋律志向でしか教えない。これを体系的に改革しない限り、「絶滅危惧種」は早晩消滅するだろう。
お読みになればお解りのように、通奏低音は時に面倒な仕事である。しかしそれは、込み入った過程を経て出来上がる様々な工芸の世界にも似て、大量生産とは違う味わいの音楽造りに必要な理解と技術なのである。
経済性や効率が重視され、人文系の学問は不要などという不毛で近視眼的な意見がまかり通りつつある昨今、不要呼ばわりされる音楽のまたその中で通奏低音について云々するのは最も時代に逆行しているかもしれない。しかし、音楽の微細な違いを認めて尊重するには、通奏低音の理解は重要である。種の生存に本書が役立つかどうかは甚だ疑問であるが。
最後に本書の刊行に尽力し編集に携わって下さったアルテスパブリッシングの木村元氏に心から御礼を申し上げ、家でいつも支えてくれている妻に感謝を述べたい。
二〇一七年五月 大宮の自宅にて
鈴木秀美
在庫あり
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