四六判 368頁 並製
定価 2,420円 (内消費税 220円)
ISBN978-4-86559-132-3 C1073
在庫あり
奥付の初版発行年月 2015年11月 書店発売日 2015年11月20日 登録日 2015年10月26日
子どもたちが会員や奏者になり、曲やチラシ絵を応募して作る史上かつていないコンサート。マエストロ大友直人が心血を注いだ「こども定期演奏会」の12年をドキュメントし、子どもと音楽の理想の出会いを考える。
子どもたちの力を信じ、未来の音楽文化を創造する。
マエストロ大友直人が心血を注いだ東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」のすべて。
子どもたちが定期会員となり、オーディションでソリストや演奏者になり、テーマ音楽やチラシの絵を応募して作り上げる史上かつてないコンサート。
大友直人、東京交響楽団、サントリーホールは何をめざしたのか──
「こども定期演奏会」の12年間をつぶさにドキュメントするとともに、バーンスタインの「ヤング・ピープルズ・コンサート」など世界の子ども向け演奏会の歴史をひもとき、子どもと音楽の理想的な出会いとはどのようなものかを考える。
口 絵
はじめに(津上智実)
第1章 大友直人、「こども定期演奏会」を語る インタヴュー/構成:津上智実
第2章 「こども定期演奏会」の十二年──子どもたちと社会が作った演奏会(有田栄)
♪二〇〇一年度「こども定期演奏会──わくわく、ドキドキ、予告編」
♪二〇〇二年度
♪二〇〇三年度──楽器の楽しみ
♪二〇〇四年度──オーケストラ音楽の世界
♪二〇〇五年度──音楽のまち
♪二〇〇六年度──音楽の国〜音楽の街めぐり〜
♪二〇〇七年度──音楽の情景
♪二〇〇八年度──偉大なる作曲家
♪二〇〇九年度──偉大なる作曲家Ⅱ
♪二〇一〇年度──オーケストラのすばらしい世界
♪二〇一一年度──音の情景
♪二〇一二年度──オーケストラの魅力
♪二〇一三年度──オーケストラの楽器たち
♪「こども定期演奏会」を支える社会
第3章 子どものためのコンサートの歴史(津上智実)
♪アメリカ
♪イギリス
♪ヨーロッパ大陸
♪日本
♪朝日新聞の記事にみる「子ども&管弦楽」
♪青少年交響楽鑑賞会
♪群馬交響楽団の音楽鑑賞教室
♪東京朝日新聞文化事業団の音楽教室
♪日本フィルハーモニー交響楽団の「夏休みコンサート」
♪近年の動向
♪文化庁による教育プログラム
♪まとめ
第4章 「こども定期演奏会」のプログラムはどのように作られていたのか(津上智実)
♪累積的なプログラム構成
♪子どもの理解力に対する信頼──「子ども向け」でない作品の演奏
♪音楽の力に対する信頼──すぐれた音楽はおもしろい
♪「こども定期演奏会」の演奏曲
♪音楽の構成要素を理解するおもしろさ──ハーモニーなどの実験
♪聴くことの大切さ、静寂の重要性──静寂の実験
♪演奏会は人間的な交流の場という主張──拍手の実験
♪演奏会は人間的な交流の場という主張──団員の名前を呼んで顕彰する
♪子どもの音楽的可能性を拡げる工夫──こども奏者、テーマ曲募集、指揮者への質問
♪演奏会は複合体という主張──ポスター画募集、プログラム、レセプショニスト募集
♪スポンサー確保による一流の演奏陣の実現──一流のソリストたち
♪さらなる芸術体験へと誘う──CDやDVDで全曲、劇場でオペラやバレエを
♪音楽することの意味を語る
♪子どもたちを励ます語り
♪さらなる世界へと誘う──歴史や地理
♪子どもに対する敬意をもち、小さな大人として遇する
第5章 「読む」音楽作品──子どものための曲目解説とは?(有田栄)
♪読み手としての「子ども」
♪ターゲットをどこに置くのか
♪言葉を尽くしてていねいに説明すること
♪「きちんとした言葉づかい」で書くこと
♪基本的な修辞法・構成をふまえて書く
♪リズムよく書く
♪あえてむずかしい漢字・むずかしい言葉を使う
♪音楽の世界への導入として、どんな話題が必要か
♪そしていちばん必要なことは
第6章 子どもと音楽の未来のために(津上智実)
♪時間を守る
♪ニューヨーク・フィルの話
♪東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」のメリット
♪バーンスタインの考え方
♪子どもたちへの語り方
♪子どものためのコンサートの位置づけ
♪研究の必要性
♪子どものために弾く姿勢
あとがき
付 録
表1 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)プログラム一覧
表2 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)作曲家別演奏曲一覧
表3 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)ソリスト一覧
表4 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)こどもソリスト一覧
表5 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)こども奏者一覧
表6 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)テーマ曲作曲者一覧
表7 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)チラシ絵描画者一覧
表8 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)配布プログラム紹介記事一覧
表9 「こども定期演奏会」第1期(2002-13年度)助成一覧
表10 神戸女学院大学音楽学部「子どものためのコンサート・シリーズ」一覧
表11 ラジオ番組「子供の時間」のオーケストラ演奏(1925-39年、朝日新聞掲載分)
はじめに 津上智実
子どもたちにほんとうによい音楽プログラムを与えたい、そのためにはいったいどうしたらいいのだろうか──これがこの本のテーマです。
日本でも近年、子どものための音楽プログラムが増えてきました。オーケストラやホール、財団といった大きな組織が主催するものから、教育委員会と組んで地域の学校や施設などで活躍する個人や少人数のアンサンブルまで、多種多様です。電力会社や電鉄会社などの一般企業が社会貢献の一環として開催するものもあります。海外の有名なエデュケーション・プログラムを日本に招聘するといったこともさかんにおこなわれています。夏休みなどいろいろな企画が目白押しで、十年前とくらべると花盛りといえるほどの活況です。
しかし実際に足を運んでみると千差万別、玉石混淆です。来てよかったと思えるコンサートもあれば、期待はずれでがっかりすることもあります。この違いは何でしょうか? せっかく時間とお金をかけて来たのに、なんだか損をしたような気持ちになるとすれば、それはその親子にとっても、また出演者や主催者にとっても残念なことですし、もったいないことです。
子どものための音楽プログラムで大切なことはいったい何なのでしょうか?
いっけん花盛りの今だからこそ、この点を掘り下げて一度じっくりと考えてみる必要があるように思います。そうすることによって、お父さん、お母さんたちは子どものためによい企画を選ぶ鑑識眼を磨くことができるでしょうし、主催や企画を担う人々はさらによいプログラムを実現するためのヒントを得ることになるでしょう。実際に活動している音楽家やこれから世の中に出ようとする音楽大学の学生たちも、将来の活動について指針や手がかりを得ることができるはずです。この本を企画し、ぜひ出版したいと思ったのは、このような狙いからです。
筆者は二人の子どもを産み育てるなかで、子どもの音楽文化のあり方についていろいろと考えさせられてきました。その後、大学の音楽学部に奉職して、「子どものためのコンサート・シリーズ」を二〇〇二年に開始し、今日まで十四年余りにわたってこのプロジェクトを率いるなかで、何が大切なのか、どう考えればいいのかを絶えず問い続けてきました(神戸女学院大学「子どものためのコンサート・シリーズ」については巻末付録の表10を参照)。何かヒントが得られればと思って、国内はもとより海外の事例についても可能なかぎり足を運んで、実際に見聞し、プログラム分析をおこない、学生の指導に活用するということを続けてきました。
そのなかでとりわけ印象的だったのが、二〇一一年一月十五日にニューヨークのエイヴリー・フィッシャー・ホールで聴いたニューヨーク・フィルの「ヤング・ピープルズ・コンサート」です。指揮者バーンスタインの名とともに世界的に有名なこのコンサートに初めて接して、演奏もお話もすばらしいのに、それだけでは足りないのだということに気づかされました。詳しくは本書の第6章で説明しますが、前年に東京のサントリーホールで聴いた「こども定期演奏会」のほうが格段にすぐれている点があると思いいたったのです。
このときから、東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」は、筆者のなかで大切な演奏会になりました。海外の有名なコンサートまでわざわざ足を運ばなくても、国内にこんなに立派な音楽プログラムがあるではないか、それならここに学ぼうと思ったのです。行けない回も多々ありましたが、できるかぎり通って、多くのことを学んできました。
今回、東京交響楽団とサントリーホールの理解と協力を得て、過去十二年間の「こども定期演奏会」の配布プログラムと録画をすべて借用し、分析する機会を得ることができました。バーンスタインの「ヤング・ピープルズ・コンサート」は、テレビ放送によって全米の青少年のみならず大人にも大きな影響を与えましたが、東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」は、コンサート・ホールに子どもたちが足を運ぶことを大切にしてきたため、ラジオやテレビによる放送をおこなっていません。そのため、チケットを手に入れて入場することができた二千人ほどの幸運な人は別として、その他の大多数の人たちは、このすぐれた音楽プログラムを知ることができないままです。こんなに惜しいことはありません。子どものための音楽プログラムを考えるうえで、これほどすぐれた教材はないと筆者は考えています。そのエッ
センスをぜひ広く知ってもらいたいというのが、本書を執筆した大きな動機です。
もうひとつのきっかけは、「こども定期演奏会」を初回からずっと指揮してきた大友直人さんが、十二年をひと区切りとしてこの演奏会シリーズから退いたことです。大友さんは指揮だけでなくお話も担当してきました。エデュケーション・プログラムにおけるナヴィゲーターの重要性をひしひしと感じてきた筆者からすると、十三年目からの新体制─すなわち指揮者は毎回違う人で、プロのアナウンサーがお話を担当するというかたち─への変更は、「こども定期演奏会」のあり方を根本的に変えるものと思われました。そこで最初の十二年間を「こども定期演奏会」の第一期として位置づけ、そこで展開されたすぐれた音楽プログラムのエッセンスをまとめておきたいと考えた次第です。
さいわいなことに、大友直人さんも本書の計画に賛同してくださって、全面的な協力を得ることができました。本書の第1章は、二〇一四年三月に東京・外苑前でおこなった大友直人さんのインタヴューをまとめたものです。大友さんの子どもたちへの信頼が、ご自身の子ども時代の体験に裏打ちされていることが、よくわかると思います。
もうひとつさいわいだったのは、大友直人さんから「こども定期演奏会」について相談するならこの人と推薦された有田栄さんが、筆者の大学院時代からの知り合いであったことです。有田栄さんは「こども定期演奏会」の台本と曲目解説を初回から十二年間にわたって書き続けてきました。有田さんには、本書の第2章「『こども定期演奏会』の十二年」と第5章「『読む』音楽作品」を書いてもらいました。
このように本書は、東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」が十二年でひと区切りしたのを機に、子どものためのコンサートの歴史と意義と未来とを考えようとするものです。特にそのプログラム構成と子どもたちへの語り方との基底にある人間理解、音楽理解を明らかにすることは、今後、子どものための音楽プログラムを企画・実施・享受する人々にとってまたとない教材になることでしょう。
本書が、子どもの感性を拡げたいと願う全国津々浦々のお母さんやお父さんたち、子どもの豊かな音楽文化を真剣に考えようとする音楽・文化関係者、そしてこれからの時代を担っていく若い音楽家や音楽大学の学生たちにとって、音楽で子どもの心をつかむための、よき踏み台となることを願っています。
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