久保田 慶一(著)
A5判 304頁 並製
価格 2,640円 (内消費税 240円)
ISBN978-4-7998-0177-2 C1037
在庫あり
書店発売日 2019年09月26日 登録日 2019年08月30日
ピアノの本 | |
音楽鑑賞教育
評者:佐野靖(東京藝術大学教授) |
音楽の道へ進みたいと考えている高校生や大学生、社会人、プロ音楽家。音楽の力を持つ人がどう生きていけばよいのか。その力を社会でどう活かすことができるのか。海外のキャリア理論も多数紹介しつつ考えていく。
将来、音楽の道へ進みたいと考えている高校生や大学生、音大生、また自分の音楽能力を役立てたいと考えている社会人、すでに音楽で生計をたてている音楽家……。そんな音楽に関わるすべての人々に向けて書かれた本。音楽の力を持つ人は、どう生きていけばよいのか。音楽の力を持つ人は、その力をどういかすことができるのか。音楽の道は、演奏家になってコンサートを開くだけではなく多彩である。被災地での支援活動や施設での演奏活動など多種多様な方法で音楽を活かした活動ができる。自分の価値を高め、多様な社会経験を得る方法は? 人生100年時代に、ただ夢を追うだけではないキャリア形成をどう考える? そうした音楽とキャリアについて、ライフ・ステージ、キャリア発達理論、意志決定、アウトリーチ、ソーシャル・エンゲージメント、アーティスト・シチズン、ティーチング・アーティストなど多くのキャリア関連理論を、国内や海外での多くの実例も紹介しつつ解説し考える。そして、社会で必要とされる音楽や音楽家とは何なのか、現代の音楽家にはどんな教養が必要とされているのか、多面的、現実的に音楽とキャリアを考える1冊。
序章 この本を読む前に知っておいてほしいこと
第1節 ここでいう「音楽」とは
第2節 ここでいう「職業」とは
第3節 ここでいう「キャリア」とは
第4節 キャリアが意味するところ
第1章 リーマン・ショックと東日本大震災ーー音楽界に与えた影響
第1節 リーマン・ショックとその後
(1)アメリカが招いた「金融危機」
(2)EUの危機
(3)日本の状況
第2節 日本における2度の「災後」とその後
(1)「災後」という区切り
(2)「災後」に語れることとは?
第3節 リーマン・ショック後の欧米の音楽状況
(1)アメリカ
(2)カナダ
(3)ヨーロッパ
(4)イギリス
(5)オーストラリア
(6)共通する傾向
第4節 「災後」の日本の音楽状況
(1)仙台フィルの取り組み
(2)エル・システマジャパンの取り組み
第5節 レジリエンスからプロスペクトへ
第2章 人生100年時代の音楽家の生き方と働き方
第1節 人生100年時代とは
(1)長生きすればリスクも高まる
(2)海図としてのキャリア・デザイン
第2節 ライフ・ステージ・サイクル
(1)ライフ・ステージとは
(2)教育期・労働期・余生期
(3)ライフ・ステージの細分化
第3節 キャリア発達理論
(1)キャリア発達理論とは
(2)キャリア発達では「移行」が重要
第4節 多様な働き方と学び方
(1)ポートフォリオ・ワーク
(2)学びとアンラーニング
第3章 音楽家のキャリア選択を考える
第1節 「自由に生きる」とは
(1)自由と責任
(2)自己責任とは
(3)新自由主義経済の功罪
第2節 合理的な意思決定の難しさ
(1)人は合理的に行動できるか
(2)人はどこまで合理的に決めることができるか
(3)決めるのは感情
(4)人は確実で、得で、今手に入るほうを選びたがる
(5)ここで諦めたらこれまでの努力が無駄になる
第3節 音楽家のキャリア選択とバイアス
(1)ヒューリスティックとバイアス
(2)音楽大学生の卒業前のキャリア選択
第4節 意思決定の難しさ
第5節 人生は偶然か必然か
第4章 社会を変革する音楽リーダーシップ
第1節 音楽と社会の関係
(1)アウトリーチからソーシャル・エンゲージメントへ
(2)地域とは何か
(3)地域社会とコミュニティの相違
(4)SNSとクラウドファンディングが作る新しいコミュニティ
第2節 現代的課題としての音楽家の社会参加
(1)イーストマン音楽院のリーダー育成
(2)ポジティヴ心理学とウェル・ビーイング
(3)現代の若い音楽家に求められるもの
第3節 アーティスト・シティズンとして
(1)市民シティズンとは
(2)シティズンシップ教育
(3)アーティスト・シティズン
第5章 聴衆参加を促す「インタラクティブ演奏会」
第1節 インタラクティブ演奏会とは
(1)インタラクティブとは
(2)どうしてインタラクティブ演奏会が必要なのか
第2節 ティーチング・アーティストとはどんな人?
(1)ティーチング・アーティストの仕事
(2)芸術と教育とのむすびつき
(3)「個人的に大切なつながり」を見つける
(4)エントリーポイントを見つけるーー「知識より体験を」
(5)アクティビティーー「プロセスと結果のバランスが大切」
第3節 インタラクティブ演奏会を企画してみよう
(1)市民のための音楽鑑賞講座
(2)0歳児のための演奏会
(3)日赤血液センターでの演奏会
第4節 音楽教育との関係について
(1)学校の鑑賞教育
(2)芸術の超・教育学とは
第6章 社会で必要とされる音楽や音楽家とは?
第1節 社会やコミュニティへの視点
(1)地域への視点の必要性
(2)点から線へ、線から面への活動
第2節 アメリカの音楽社会人教育
(1)カーティス音楽院の「アーティスト・シティズン・カリキュラム Artist citizen curriculum」
(2)「社会的起業」とは
第3節 「コミュニティ・アーティスト・プロジェクト」
(1)「コミュニティ・アーティスト・プロジェクト」
(2)「コミュニティー・アーティスト・フォローシップ」
第4節 現代的課題に向きあう
(1)現代的課題とは
(2)カーネギー財団プロジェクト「ララバイ・プロジェクト」
第5節 社会で必要とされるとは?
第7章 現代の音楽家に必要とされる教養
第1節 教養とは何か
(1)教養の定義
(2)リベラル・アーツの起源
(3)近代の大学におけるリベラル・アーツとリベラル・フリー
(4)アメリカにおける一般教育
第2節 日本の大学における教養教育
(1)日本の大学における一般教養科目
(2)「大学設置基準の大綱化」
(3)教養教育を侵食するキャリア教育?
第3節 音楽大学における教養教育
(1)カリキュラムの誤解
(2)音楽キャリア教育
第4節 社会音楽人に必要とされる教養
(1)カウンセリング
(2)著作権
第8章 現代の音楽家の学び
第1節 大学で学ぶ意味
(1)大学とは何か
(2)学生としてしておくべきことは?
第2節 学位、資格、免許
(1)大学と学位
(2)対価としての学位
(3)資格と免許
第3節 大学でのリカレント教育のすすめ
(1)子どもの学習と成人の学習
(2)大学でのリカレント教育
第4節 プロティアン・キャリア
(1)「生涯学習」という言葉は時代遅れ?
(2)プロティアン・キャリア
第5節 エンプロイアビリティの向上
終章 私のキャリア論
第1節 悩める欧米人
(1)悩めるジュリアードの学生
(2)欧米のキャリア論からの脱却を
第2節 東洋的キャリア論の試み
(1)中国哲学から学ぶ
(2)IKIGAIとは
第3節 自由な自分、自律した自分
(1)「自」とは
(2)自由とは何か
(3)原点となる自分とは
第4節 私のキャリア論
(1)あまり考えすぎない
(2)立ち止まらない
(3)ときに停まり、ときに脇道にそれるのもよし
おわりに
この本の書名が『新・音楽とキャリア』と題されているのは、旧版が存在するからである。もちろん、この新版が出版されるまでは、旧版と呼んでいたわけではないが、旧版にあたる『音楽とキャリア』は、2008年8月に出版されている。もう10年以上の歳月が流れたわけである。2008年は平成20年だが、この『新・音楽とキャリア』が読まれるときは、もはや平成ではなく、令和である。
この10年の間に、世界あるいは日本でさまざまな出来事があった。人それぞれにとって重要な、あるいは思い出に残る出来事は異なるが、キャリアーーこの言葉については後で詳しく説明するがーー、すなわち人がどう生きるかということに関心がある人は、2008年9月にアメリカで発生した世界的規模の「金融危機」と、2011年3月に日本の東北地方の太平洋沿岸を襲った「東日本大震災」とその影響で発生した「福島第一原子力発電所事故」、これらの 出来事が決定的に重要であると言うかもしれない。いずれも突然に、無差別的に、何の罪も責任もない人々に降りかかり、人々のこれまで平和な生活だけでなく、生命、財産、そして生活を打ち砕いてしまったからである。同じような意味で、2011年9月11日に発生した「アメリカ同時多発テロ事件」も忘れることのできない出来事だろう。その後オバマ政権やトランプ政権の誕生を準備した事件としても、アメリカのみならず、世界の人々にとっても影響が大きかったことはまちがいない。
「震災後」の日本では、キャリアを研究する人だけでなく、すべての人が将来について語ることができなくなった。将来を語ることは現実からの逃避であり、また直前に亡くなった人たちを忘却の淵に追いやることを意味したからであろう。そしてリーマンショックの影響からいち早く立ち直ったアメリカの好景気に支えられて、日本の経済もーー安倍内閣の打ち出した「アベノミクス」の効果があったのかどうかは、筆者にはわからないがーー回復はした。しかしその一方で、改元の高揚感に浸り、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催をひかえ、外国人観光客の増加に賑わう東京とは裏腹に、被災地の復興はまだ道半ばにあり、福島第一原子力発電所では廃炉処理に向けての道のりははるかに遠い。なんともちぐはぐな状況にある日本で、暗い側面を覆い隠すかのように、明るい側面ばかりが話題になっている、あるいはされていると感じるは、筆者だけであろうか。
本書の「旧版」は、人々の人生観や死生観を揺るがせた「金融危機」、自然災害と半ば「人災」ともいえる原子力発電所の事故が発生する以前に執筆されており、その後の世界や日本の変容は反映されていない。そして筆者自身がこうしたことを経験して、年齢も60歳を超えたことから、内面的にも変化を遂げている。そろそろ自分自身の考えを整理し、その後のアメリカや日本での新しい動きを紹介しながら、「音楽とキャリア」の新版を書くという気持ちに至った。
こうした意味で、旧版をすでに読まれた方は、筆者とともに、時代や社会とともに変化した、キャリアをとりまく状況を実感していただければ幸いである。あるいは、筆者自身の考え方や見方の変化も感じ取っていただけるかもしれない。また新版から読まれ関心を持たれた方は旧版も手にしていただければ幸いである。
キャリアを取り巻く環境は誰にでも平等に現れるかというとそうではない。ましてや自分のキャリアをどう意味づけるかも、人それぞれである。本書でもできるだけ客観的な説明に努めた部分と、比較的私自身の主観が色濃く反映されている部分があるので、読者の方もそのつもりで筆者の語ることを理解していただければと思う。「筆者はこう書いているが、はたしてそうなのだろうか? 私は違うと思う」といったことがあって当然いいわけだ。本書をきっかけに、自分自身への振り返りにしていただければ幸いである。
楽器の演奏や合唱など、音楽経験を持つ人は多いと思います。中学、高校での吹奏楽や合唱は言うに及ばず、子どもの頃からピアノやヴァイオリンを習っていた人、バンドを組んでギターやドラム、ボーカルをやっていた人も多いでしょう。そうした自分の持つ音楽する力を自分の人生にどう活かしていけるのか。本書はそうしたことについて詳しく書かれています。音楽で食べていくのはなかなか難しいですが、何も演奏会を開くだけが音楽で生きる道ではないはずです。逆に、音大を出たから必ず音楽の道を突き進むべきとは言えない点についても本書には書かれています。
音楽と社会の関係をどう考えていくか、さらには、自分自身の音楽力と社会の関係をどう考えていったらよいのか。豊富な例とともに解説しています。また、海外で実際に活動がなされている例も多数紹介。病院や施設、被災地でのコンサート開催を、ソーシャル・エンゲージメントという理論で考え、双方によい効果がある方法を考えます。また、地域社会への貢献については、地域とコミュニティの違いや、行政体の違い、SNSやクラウドファンディングが生みだすコミュニティなど、社会といかに関わっていくべきかを考えます。
多くの音楽とキャリアに関する理論や実践例が紹介されているので、自身が求める方向性や理想に近い方法を探っていくきっかけにもなるでしょう。現代社会におけるキャリアとは何なのか。本書を読むことであらためて考えるきっかけとなるはずです。
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