新山王 政和(著)
B5判 216頁 並製
定価 2,200円 (内消費税 200円)
ISBN978-4-7998-0122-2 C3037
在庫あり
奥付の初版発行年月 2013年12月 書店発売日 2013年12月12日 登録日 2013年11月28日
中学、高校における吹奏楽指導に何が必要なのか、実験や研究の成果をまとめた論文集。関連するコラムも掲載。学校吹奏楽と音楽教育について、また、音楽能力が指導法によってどのように変化するかなど興味深い研究成果。
中学、高校における吹奏楽指導に何が必要なのか、何が不必要なのか、様々な実験や研究の成果をまとめた論文集。15の論文を収載したほか、関連するコラムも掲載。学校吹奏楽と音楽教育について、また、音楽能力が指導法によってどのように変化するかなど、興味深い研究成果が収められている。
●section 1:バンド活動における音楽教育の可能性 −指導法と音楽能力のかかわり−
はじめに
1.中学校吹奏楽部員における音楽能力の実験調査
2.バンド教育の基本理念について
おわりに
●section 2:中学校吹奏楽部員における音楽能力の発達過程について −ベントリーテストによる実験調査の報告−
1.研究の目的と実験調査の概要
2.調査結果の分析と考察
3.まとめ
■コラム:どんなバンドでも必ずやってる常識です!〜最低限やろう「演奏者のおしごと」
●section 3:学校吹奏楽の活動における生徒の音楽能力の発達過程について −ベントリーテストによる中学校および高等学校吹奏楽部員の比較−
はじめに
1.実験調査の概要
2.調査結果の分析と考察
3.提案:学校吹奏楽への期待
おわりに
●section 4:フットタッピングとテンポマッチングの関係について −タイムラグの規則性に着目して−
研究の背景と問題の所在
フットタッピングの分類
テンポ保持の能力とテンポ同期の能力
実験の手続き
分析の手続き
分析結果と考察
テンポ同期のレベル
結論
おわりに
■コラム:どんなバンドでも必ずやってる常識です!〜最低限やろう「指導者のお仕事 その1」
●section 5:演奏時におけるフットタッピングの生起現象と音楽能力の関係 −高等学校吹奏楽部員における実験調査の結果にもとづいて−
はじめに
1.実験調査の概要
2.調査結果の分析と考察
まとめ
●section 6:フットタッピングの正確さと音楽能力 −中学校オーケストラ部員における実験結果の分析報告−
1.研究の背景と問題の所在
2.実験調査の概要
3.実験結果の分析と考察
4.指導現場への提言
■コラム:どんなバンドでも必ずやってる常識です!〜最低限やろう「指導者のお仕事 その2」
●section 7:マーチング・ステップにおける足の着地とビート音のズレについて −マーク・タイムにおける経験者のステップの分析−
はじめに
1.研究の目的と実験調査の概要
2.実験結果の分析と考察
3.まとめ
おわりに
●section 8:マーチング・ステップにおける足の着地とビート音のズレについてⅡ −マーク・タイムにおける未経験者のステップの分析−
1.研究の目的
2.実験結果の分析と考察
3.まとめ
■コラム:吹奏楽・マーチング 「指導で使える言葉 40」
●section 9:マーチング・ステップにおける足の着地とビート音のズレについてⅢ −経験者と未経験者のステップ動作の比較分析に基づく,視覚的に軽快な印象を与えるマーチング ステップに関する分析的研究−
はじめに
1.マーチング・ステップ動作に関わる一連の研究の概要と目的
2.前報告で確認した事項
3.マーチング・バンド経験者と未経験者の分析結果の比較とその考察
4.まとめ
おわりに
●section 10:マーチング・ステップにおける足の着地とビート音のズレに関する再検証〜まとめ −加速度センサを用いて安定度,均質度,足上げ角度の視点から再分析により確認した「拍点跳ね上げ型のステップ」と「拍点踏み下ろし型のステップ」の差異−
はじめに
1.問題の背景と先行研究の概要
2.各被験者個人レベルでのステップの安定度について
3.集団としてのステップ動作の均質度(まとまり具合)について
4.ステップ動作中の足の位置(高さ)に着目した加速度センサによる分析
5.まとめ
●section 11:指揮基本動作における初心者と熟達者の動作タイミングの違いに関する分析的研究 −音楽ビートと運動ビートの同期,および拍点上の速度変化に関する基本原則の再考察−
1.研究の背景と,その目的
2.関連する先行研究の整理と,仮説の設定
3.実験の概要
4.分析結果の考察
5.まとめ
■コラム:音楽は点で始まるのか,点で終わるのか −“はねる”文化と“とめ”の文化−
●section 12:異なる提示音の間で出現するピッチ知覚の相違に関する実験的研究 −フラットシンギングとの関係に着目して−
1.はじめに
2.第1の実験
3.補完実験
4.第2の実験
5.考察
6.おわりに
●section 13:声や管楽器によるピッチマッチングの精度について −ピッチの知覚エラーに関する実験的研究の報告−
1.研究の動機
2.本研究の背景と,明らかにしたかったこと
3.実験の概要
4.分析の手順
5.まとめと提案
●section 14:パフォーマンスにおける“かたまり”(時間的な区切り方,時間的な間)の規則性とその確立プロセスについての分析的研究 −量的時間による分析と美的な価値観を手がかりにして−
1.研究の背景
2.本研究において分析対象にする「間」の概念について
3.第1の分析:動作を時間的にコントロールしようとする意識の有無
4.第2の分析:時間的な“かたまり”の取り方と第三者による評価の関係
5.第3の分析:時間的な“かたまり”の取り方と熟達度の関係
6.量的な時間としての“かたまり”の分析
7.本研究のまとめと教育指導現場への応用
8.おわりに
●section 15:学校吹奏楽における外部指導者システムの確立をめざした一考察 −自治体による試行事例と諸外国のコミュニティ支援システムの比較を参考にして−〈矢崎佑(愛知教育大学附属岡崎中学校),新山王政和〉
1.調査の概要と問題点の絞り込み
2.英国,スイス,ドイツ,米国ワシントン州における子ども達の音楽活動に対するコミュニティによる支援制度の具体的事例に関する調査
3.日本における学校吹奏楽の運営面の実状と,外部指導者活用に向けた試行事例
4.今回の調査のまとめ
「おわりに」に代えて
『創造活動とは,調和のための統制美とそこからの変化であり,制約の中で自己の表現を工夫することである』
私自身が音楽表現をするとき,より多くの人々に受け入れられる“音楽の普遍性”を求めたこれらの言葉を必ず頭に思い浮かべています。
私たちが大切にしたいと考えている学校吹奏楽,私たちを育ててくれた学校吹奏楽で頑張っている生徒を,お気楽で自己満足的な楽しさだけを追求する「音芸人」にするのではなく,音楽を通じてメッセージを伝える「音の伝道師」に育てて欲しいと願っています。そして子どもにとって自ら音楽の道を拓くことのできる場であることを強く願いつつ,本書を編集しました。
さて私が初めて耳にしたプロ吹奏楽団の演奏は,中学校吹奏楽部の先輩に借りた「ギャルド・レピュブリケーヌ」のレコードでした。多様な楽器を使って奏でられる吹奏楽特有の多彩な音色と奥行感,ぴったり揃い透明感溢れるピッチから生まれる美しいハーモニー,一糸乱れず流れる旋律線から生じた清潔な響き,そして微塵の乱れも許さないリズムが醸し出す躍動感。ギャルドのサウンドは私の憧れで,それに近づこうとすることでさまざまなことを知り,経験し,学ぶことができました。しかし現在では,北山敦康氏の言葉を借りると「日本の公教育における音楽教育は,自己再生産の機能を放棄した」状態にあるそうです(「改訂版新しい視点で音楽科授業を創る!」Stylenote, 2011, p.195)。私は「失われた音楽の自己再生産の機能」を補うものとして学校吹奏楽の果たす役割は大きく,担うべき責任は重いと考えています。子どもたちが学校吹奏楽の活動を通じて多くの音楽と出あい,さまざまなことを経験し,音楽と深く向き合うことができたら,どんなに素晴らしいでしょう。そして,この学校吹奏楽が担っている教育的機能と社会的貢献について,広く一般の方々に知っていただき理解してもらいたいとも思っています。そのためには,私たち自らの手で学校吹奏楽の活動を冷静に省みることで,その真価を社会へ問うてみるべきでしょう。本書の前半では,この学校吹奏楽の自己点検・自己評価について報告しています。
後半では,音や音楽に対する人間行動の面から,学校吹奏楽の指導者へ向けた報告をまとめています。我々は,1つの音楽的現象について実際にはそこで何が起きているのか,それが練習することによってどう変化するのか,なぜそのような現象が起きるのか,その実態や事実を知らないまま指導したり,練習させたりすることがあります。それらは経験に基づいたもので,結果として理にかなったものかもしれませんが,中にはカリスマ指導者の受け売りや表面的に模倣しただけだったり,教師の閃ひらめきや勘に頼った場当たり的な指導だったりすることもあります。そこで,一見単純に捉えがちな音楽的な現象に焦点を合わせて,できるだけ指導上のヒントや有益な根拠になり得るよう現実的対応可能な見地から情報を整理することをめざしています。
『改訂版・新しい視点で音楽科授業を創る!』で新学習指導要領を先取りした音楽教育の実践について論じた著者が、こんどは、学校吹奏楽をテーマにした論文をまとめました。「子どもの頃に音や音楽を媒介とした言語・非言語コミュニケーションの経験量が少ないと,音や音楽を置き換える語彙や言葉の言い回しも少なくなり,表現の幅も狭くなってしまう。これを避けるためにも,音楽的な原体験としてより多くの曲へ浸らせ,さまざまなジャンルの曲に触れさせておく必要があるでしょう。」と最後に書かれていますが、こうした経験や体験により将来、子どもたちの曲の嗜好や演奏表現の好みの選択肢が広がると書かれています。また、「子どもたちがアニメの曲や歌謡曲を各自が持つ“型”を拠り所としながら繰り返し聴き,表現し,友達同士で好き嫌いを語り合い,それらを共有することを楽しんでいるのは,正にそれらの曲に対する“音楽の型”つまり「スキーマ(シェマ)」が確立している証なのです」という興味深いことも書かれています。また、音楽教育の与える影響として、「運動会で入場行進をしなくなった時期に,音や音楽からテンポを聴き取り,それに合わせて体を動かすことの苦手な子どもが増えたといわれましたが,一見単純に思える活動にも音楽的な意味があり,それを正しく理解し説得力を持って周囲へアピールできるのは我々音楽と向き合っている教師だけです。」という音楽教育が持つ、大切な一面についても触れられています。
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