斎藤 完(著)
A5判 256頁 並製
定価 2,200円 (内消費税 200円)
ISBN978-4-7998-0117-8 C1074
在庫あり
奥付の初版発行年月 2013年07月 書店発売日 2013年07月23日 登録日 2013年06月18日
東京新聞/中日新聞 朝刊 |
前代未聞の大スター美空ひばりを社会はいかに評価してきたのか。いまだに高い人気を誇るが、当時どれほど強烈な人気を誇っていたか。その変遷や昭和の時代背景を貴重な写真も含めて、代表的な10の映画から振り返る。
前代未聞の大スター美空ひばり。その名は、いまだに忘れられることがない。いまからは想像もできないほどの熱狂的人気を得てきた美空ひばりを社会はいかに評価し、受け入れてきたのか。そして、その時代背景はどのようなものであったのか。現在では「演歌の女王」として認知されている美空ひばりだが、日本映画の黄金期には「銀幕の女王」でもあった。主演映画の多くは大ヒットとなり、全国津々浦々にまで美空ひばりの名は知れ渡り、彼女が映画の中で歌う歌は大ヒットしていたのだ。
本書では、彼女が主演した映画10本を選び、その映画から読み取れる、例えば当時の子ども観や女性に対する抑圧、さらには社会の風潮や人々の暮らしといった面や、そこから生まれた音楽の数々を例にあげて、評論家や社会や大衆が、美空ひばりをいかに評価し、また、その評価がいかに変化していったかを分析している。
美空ひばりの現役時代を知らない若い人々にも理解してもらえるように、当時の写真とともに、多くの注を添えて、登場人物や言葉の意味、背景なども説明した。
まえがき
第一章 東京キッド
・『東京キッド』に出演するまで
・初期映画の共演者はお笑い系
・歌う「戦災孤児」
・子どもらしくない子ども、そしてひばりバッシング
第二章 鞍馬天狗 角兵衛獅子
・爆発的人気と殺人的スケジュール
・占領下の時代劇とアラカンの嘆き、そしてひばりと時代劇
・ひばりと大女優たち、そしてひばりの男役
・ひばり杉作の大活躍
・戦前からの文化の体現者・美空ひばり
第三章 リンゴ園の少女
・王座獲得と限界説と打開策の失敗
・歌声は民放ラジオに乗せて
・ひばり人気、日本全国津々浦々
・《リンゴ追分》の衝撃
・二〇世紀の名曲《リンゴ追分》と美空ひばりの関係
第四章 伊豆の踊子
・「ひばり本」の世界
・「ひばり御殿」の解釈は三者三様だが
・囁かれ続けるひばり限界説
・演技派女優・美空ひばりの確立に向けて
・演技派女優への創意工夫
・『伊豆の踊子』の評価と子役からの脱却
第五章 ジャンケン娘
・ひばり主演映画の基本路線と時代の空気
・ひばりのライバルたち
・「無国籍的なポピュラー・シンガー」としての美空ひばり
第六章 ひばり捕物帖 かんざし小判
・続く大躍進と大迷惑なファンたち
・恩師・川田晴久の死が引き起こした分裂劇
・「時代劇は東映」と新しい時代劇スターたち
・ひばり捕物帖シリーズ
・ひばりの七変化
・ひばりの立ち廻りと「時代劇スター無血剣の法則(?)」
・「女は女らしく、そんなの時代遅れだわ!」
第七章 希望の乙女
・知識人・文化人からの高い評価
・クラシック音楽界の大御所・山田耕筰からの「お墨付き」
・一卵性母娘
・小野透、小野満、そして高倉健
・ひばりの映画に
・おける音楽場面の特徴
・「狸御殿もの」は何でもあり
第八章 べらんめえ芸者
・政治の季節に東映専属女優・美空ひばりは何を見せたのか
・「電気紙芝居」への出演
・べらんめえ芸者シリーズ
・ひばりのお座敷芸−小唄に俗曲、そして日舞
・ひばりの「芸者役」歴
・ひばりのお座敷芸とその民謡化
・花柳流名取・花柳美之
第九章 ひばり十八番 弁天小僧
・歌舞伎における一九六〇年代的現在
・女歌舞伎とひばり
・異性装時代劇(まことにややっこしいハナシ)
・ひばりの「歌舞伎映画」
・もちろん、東映専属時代のひばりが「和」一辺倒というワケではなかった
第十章 ひばりのすべて
・東映専属契約解約後の変化(変り身の早さ?)
・ひばり、労音で歌う(変り身の早さ? その二)
・「今日は東、明日は西」
・ひばりを受容させる際の三つの重要ポイント
・演歌への花道−ヒット曲と古賀メロディ
・「演歌の女王」の誕生
あとがき
映画作品一覧表
参考文献(著者名五十音順)
参考映画ソフト
2011年11月11日、東京ドーム。
『美空ひばり23回忌メモリアルコンサート「だいじょうぶ、日本!」』と題されたコンサートが開かれました。同月26日(土曜日)の21時〜23時48分には、テレビ朝日がその模様を放送し、13.4%の視聴率を上げたそうです。テレビ朝日の公式サイトには、AI、5木ひろし、AKB48、EXILE、岡林信康、倖田來未、郷ひろみ、小林幸子、近藤真彦、HEATWAVE、氷川きよし、平井堅、平原綾香、藤井フミヤ、ミッツ・マングローブ、雪村いづみ、ゆずらが出演者したとあります。
美空ひばりとは何者なのでしょうか。
没後から20年以上も経ってもなお、このように大々的なコンサートがおこなわれ、しかもそれが土曜日のゴールデンタイムにかかる時間に放送される、そんな歌手、いやそんな人がほかにいるでしょうか。
(中略)
じつは「演歌の女王・美空ひばり」は彼女の晩年に与えられた称号で、それ以前は特定の音楽ジャンルに縛られることはない、「歌の女王」でした。彼女が歌ったジャンルは幅広く、小唄、俗曲、民謡、浪曲といった在来のジャンルから、マンボ、ルンバ、タンゴ、チャチャチャ、ジャズ、ハワイアン、ロカビリー、ツイスト、シャンソンなどの外来のジャンルまで、1言でいえばその当時にあったほぼすべてを網羅していました。そしてその多くが時代を代表するヒット曲となっていたのです。
その人気の凄まじさは想像を絶します。
上に挙げたメモリアルコンサートの出演者全員の人気を足しても、美空ひばりにはかなわないと言っても、あながち大げさではないほどの人気を誇っていたのです。「空前絶後」とは彼女の人気を表すための言葉だと言っても言い過ぎではないでしょう。
その一方で美空ひばりは数多くの受難も経験しています。文化人や知識人からは容赦のないバッシングをたびたび受け、ストーカーまがいのファンからは顔に塩酸を浴びせかけられたこともありました。ほかにも、ひばりの公演に観客が殺到して死傷者が出た事件や、彼女の公演が全国的にボイコットされた騒動など、3面記事を賑わせることも1度や2度ではありませんでした。
まさに「空前絶後」の存在だったのです。
そんな当時のひばりを目の当たりにできるのが、映画です。美空ひばりは170本の映画に出演しました。それらが封切られたのは、日本映画の黄金期をまるまるカバーする時期に相当します。1957年〜60年にかけては、映画の入場者数は毎年10億人を超えていました(2012年の入場者数は1.5億人)。当時の人口が9000万ですから、赤ちゃんからお年寄りまでを全部ひっくるめて人口で頭割りしたとしても、国民全員が月に1回は映画を見に行っていた勘定になります。美空ひばりはそんな時代に「銀幕の女王」でもあったのです。
銀幕のひばりは、「演歌」がイメージさせる静的で内向的な世界ではなく、エネルギーが外へ外へとほとばしるような躍動感あふれる世界を見せてくれます。その姿は、保守的というよりは、むしろ当時の常識からは型破り。もちろん「歌の女王」らしく、あらゆるジャンルの歌を聞かせてくれます。まさに歌に映画に大活躍だったのです。
本書は「演歌の女王」のレッテルが貼られる以前の、「空前絶後」な美空ひばりを、映画作品をとおして紹介することを目的とします。美空ひばりに関しては、これまで100冊ぐらいの本が出版されていますが、その多くは舞台裏(私生活も含む)を明かすものであるか、あるいは作家の持論(文化論や日本論など)をひばりを通して論じるものです。いずれにしても、これらの作品は美空ひばりを知っていることが前提となって書かれていると言っても過言ではありません。それに対して本書は知らないこと(ひばり体験がないこと)を前提とします。(後略)
2011年11月。東京ドームに人気歌手が集まり、美空ひばりのメモリアルコンサートが開催され、その後テレビでも放映されました。
美空ひばりが亡くなって24年たった今年も、「あなたのひばり!私のひばり!!」と題されたコンサートが、天童よしみなどをゲストに全国で開かれるなど、その人気は衰えていないようです。
幼い頃から芸能界で人気を得てきた美空ひばり。空前の人気スターとなりつつも、最初は著名な音楽家や評論家から激しく批判されていました。それでも、人気は続き、次第に評価は改められ、女性初の国民栄誉賞を受賞するまでに至ります。
その時代背景や社会変化はどのようなものだったのか。時代は彼女をどのように見て、どのように評価してきたのか。代表的な10の映画を題材にして、その状況や背景を探ります。
本書では、美空ひばりや関連する映画のポスター、スチール写真のほか、それぞれの内容に沿った美空ひばりの貴重な写真等もいろいろと掲載しました。
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