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文化を楽しむ出版社

【第6回】武蔵野音楽大学管弦楽団演奏会

 2009-09-22   

2009年9月13日 (日) 午後3時、オーバード・ホール (富山県富山市)

 武蔵野音楽学園創立80周年を記念し、武蔵野音楽大学管弦楽団が石川・富山で公演を行ない、日本との国交回復50周年を祝うハンガリーでも5回の公演を行なうという。その一連の公演のうち、2日目となる、富山市のオーバード・ホールでの公演を楽しんだ。バラエティに富んだ選曲と、凝縮された演奏表現を堪能したコンサートだった。

 冒頭に演奏されたリストの交響詩《レ・プレリュード》は、オーケストラのスペクタクルではなく、堅実で確かなアンサンブルで、じっくりと聴かせるアプローチだった。リストは諸文芸におけるナラティブと音楽との関係を深めながら古典的な美しさから脱皮していく音楽を趣向していたが、そうはいっても、ピアノ協奏曲を含め、響きそのものは伝統的なオーケストラを継承している。今回の演奏では、例えばホルンとチェロが一緒に奏する箇所では音色が見事に融合しており、オーケストラを楽器セクションで分け隔てるよりも、楽想や、声部で考えることができた。それによって、作品が持つがっちりとした構築美を、改めて感じることになった。

 ハンガリー出身の歌手2人によるコダーイのオペラからの二重唱が続く。コダーイというと、音楽教育界では民族音楽を出発点としたコダーイ・メソッドの教育論が有名だが、音楽作品だと、国内ではオーケストラの組曲になった《ハーリ・ヤーノシュ》ばかり知られているという印象がある。だから、今回のように、オペラとしての《ハーリ・ヤーノシュ》や、少なくとも私は聴いたことのない《セーケイ地方の紡ぎ部屋》といった作品は、これから行なわれるハンガリー公演のためのものだとしても、とても興味をそそられるものだった。

 《ハーリ・ヤーノシュ》では舞台中央にツィンバロンが添えられ、斎藤浩が、ハンガリーでは自国の音楽伝統として自然に受け入れられるにせよ、独特のエキゾチック感を醸し出していた。がっしりとした体格のソプラノ・ヴィンチェとテノールのダニエル・パタキ=ポチョクはいずれもリスト音楽院の学生だそうだが、言葉の頭にアクセントを置くハンガリー語らしい旋律を自然に歌い上げていた。もちろんオペラ・ハウスとして作られているオーバード・ホールの音響がオペラ演目の上演に有利に働いたこともあるだろうし、歌い手の母国語だからということも、演奏の面白さを後押しするものだっただろう。豊かな声量を持つ二重唱はディクションも明瞭であり、聴き手に一時の安らぎを与えた。

 リストのピアノ協奏曲第2番では、武蔵野音楽大学のオーディションで選ばれた荒井茉里奈の独奏による力強いピアニズムと、楽器の鳴りの良さに驚かされた。また技術的に困難と思われる数々のパッセージを楽々と弾きこなしながら、その難しさを表現としてアピールする能力にも長けていた。一方、室内楽的な箇所を含むこの協奏曲に内包された、ヴィルトゥーゾの背後に潜むリストの詩情については、これから作品に対して透徹した弾き込みをさらに進めることにより、沁み出してくることを期待したい。テンポが入れ替わる箇所でも颯爽とした対応が聴けたところをみると、あらかじめオーケストラとのリハーサルでも良く合わせていたという印象を持った。

 プログラム後半は、チャイコフスキーの《悲愴》である。前半に引き続き安定したアンサンブルを武蔵野音楽大学管弦楽団は聴かせ、音楽に対するアプローチも一貫していた。つまり、大きなオーケストラの威力で圧倒するのではなく、持っている精緻なアンサンブル能力を着実に表現に結びつけていく実力の表現である。「ロシアのオケだったら…」と不満を発する人が皆無とは言わないが、いたずらに吼えず、また感傷に溺れず、表情の核を保ちながら、自然に気品よくつないで行く音楽作りをしていた、私はこれを評価したい。ブラームスの《ハンガリー狂詩曲》第5番などのアンコールも、通常《悲愴》のような重苦しい作品の後ではしらけてしまうものだが、今回のような、あっさりとした演奏ならば、充分「あり得る」と思わせた。

 常日頃からオーケストラ・アンサンブル金沢や桐朋アカデミー・オーケストラなどの演奏会を私は聴いているが、それらとは違ったオーケストラの魅力を発見した公演だった。

演奏曲目

・リスト 交響詩《レ・プレリュード》
・コダーイ 2つの歌劇より
 歌劇《ハーリ・ヤーノシュ》より 二重唱<ドナウの彼方>
 歌劇《セーケイ地方の紡ぎ部屋》より 二重唱<チタール山脈のふもとには>
・リスト ピアノ協奏曲第2番イ長調
・チャイコフスキー 交響曲第6番ロ短調 Op. 74《悲愴》

クララ・ヴィンチェ (ソプラノ、リスト音楽院学生)、ダニエル・パタキ=ポチョク (テノール、リスト音楽院学生)、荒井茉里奈 (武蔵野音楽大学3年生)、カール・ベルケシュ指揮武蔵野音楽大学管弦楽団

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